城南信金の知らない「リスク」の意味

2018年03月30日 13:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

けさの「朝まで生テレビ!」は、3・11から7年だったが、議論がまるで進歩していない、というより事故直後に比べてレベルが落ちて、話が堂々めぐりになっている。特に最近「原発ゼロ」業界に参入してきた城南信金の吉原毅氏は、エネルギー問題の基礎知識なしにトンチンカンな話を繰り返して辟易した。

彼が「太陽光エネルギーは4円/kWhぐらいになって原発より安い」というので、私が「それならFIT(固定価格買い取り)で21円/kWhで買い取る必要はない。マーケットで競争すればいいでしょ」と質問すると、しどろもどろになった(1:03~)。三浦瑠麗氏も、私が同じ質問をすると話をすりかえて逃げ回る。

固定価格買い取り制度(FIT)の太陽光買い取り価格(円/kWh)

固定価格買い取り制度(FIT)の太陽光買い取り価格(円/kWh)

この答は簡単だ。図のように全量買い取り価格が当初40円に設定されたのは、再生可能エネルギーの価格が火力や原子力(10円)より高かった(20~30円程度)からだ。今は買い取り価格は21円に下がったが、吉原氏のいうように太陽光の原価が4円だとすると、原発より安いのだからFITは必要ない。飯田哲也氏も認めたように、ドイツはFITをやめて市場にまかせる制度になった。原発がマーケットで淘汰されれば「原発ゼロ」運動なんか必要ない。

笑えるのは、吉原氏が「事故の確率に損害をかけてリスクを計算する」というので、私が「福島では3基の事故処理コストが21兆円だから、1基7兆円。500炉年に1回という事故の確率をかけたらいくらになるのか」と質問すると、何をきかれているのかわからない(1:53~)。これはリスクを計算して融資する信金の経営者としては信じられない。

事故処理コストに確率をかけたリスクは、資源エネルギー庁の原発コスト計算では「事故リスク対策費用」0.3円や「政策経費」1.3円として計上されている。kWh単価でいうと2円弱で、今のエネルギー政策に織り込まれている。

これが信金が融資するときも考えるリスク・プレミアムつまり金利である。損害保険もこういう確率計算で、原発にかかっている。その確率の計算さえ知らないで「事故の確率がゼロでなければ原発は即時ゼロだ」という城南資金は、倒産する確率のゼロでない中小企業への融資はすべてやめるべきだ。

This page as PDF

関連記事

  • BP
    2015年10月公開。スーパーメジャーBPの調査部門のトップ、スペンサー・デール氏の講演。石油のシェア低下、横ばいを指摘。ピーク・オイル(石油生産のピークの終焉)の可能性は減りつつあり、なかなか枯渇しないこと。「デマンド・ピーク」、つまり需要抑制による使用減があり得ることを、指摘している。
  • 各種機関から、電源コストを算定したレポートが発表されている。IRENAとJ.P.Morganの内容をまとめてみた。 1.IRENAのレポート 2022年7月13日、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、「2021年
  • 脱炭素要請による下請けいじめを指摘する面白い記事を目にしました。「脱炭素要請は世界の潮流!」といった煽り記事ではなく、現場・現実を取り上げた記事が増えるのはとてもよいことだと思います。 「よく分かんないけど数字出して」脱
  • (1)より続く。 【コメント1・ウランは充分あるか?・小野章昌氏】 (小野氏記事「ウランは充分あるか?」) 無資源国日本ではエネルギー安全保障上、原子力しかない。莫大な金をかけて石油備蓄しているが、これは1回使ったら終わ
  • 昨年10月のアゴラ記事で、2024年6月11日に米下院司法委員会が公表した気候カルテルに関する調査報告書のサマリーを紹介しました。 米下院司法委が大手金融機関と左翼活動家の気候カルテルを暴く サマリーでは具体性がなくES
  • 原子力発電所の再稼働問題は、依然として五里霧中状態にある。新しく設立された原子力規制委員会や原子力規制庁も発足したばかりであり、再稼働に向けてどのようなプロセスでどのようなアジェンダを検討していくのかは、まだ明確ではない。
  • 釧路湿原のメガソーラー建設が、環境破壊だとして話題になっている。 室中善博氏が記事で指摘されていたが、湿原にも土壌中に炭素分が豊富に蓄積されているので、それを破壊するとCO2となって大気中に放出されることになる。 以前、
  • 米国のマイケル・シェレンバーガーが、「国連こそは気候に関する “偽情報発信の脅威がある行為者”である――国連や米国政府が偽情報の検閲に熱心なら、なぜ彼ら自身が偽情報を拡散しているのだろうか?」と題

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑