原子力安全規制の行政官の専門性を高めよ
透明性が高くなったのは原子力規制委員会だけ
昨年(2016年)1月実施した国際原子力機関(IAEA)による総合規制評価サービス(IRRS)で、海外の専門家から褒められたのは組織の透明性と規制基準の迅速な整備の2つだけだ。いずれも国会が決めたもの。行政の成果では決してない。福一事故後、原子力規制委員会は審査状況を全てインターネットで公開するようになった。それが褒められたのである。
しかし、透明になったのは原子力規制委員会と申請者の間だけで、原子力規制委員会と原子力規制庁との間の会話は非公開のままだ。実質的に規制行政を担っているのは原子力規制庁だが、彼らがどのように原子力規制委員会をコントロールしているかは不透明なままだ。米国の原子力規制委員会では原子力規制庁側から原子力規制委員会の委員への接触が禁じられていることを肝に銘じるべきだ。
真に高い専門性が求められるのは原子力規制庁
福一事故で専門性を問われたのは旧原子力安全委員会ではなく、行政機関である旧原子力安全・保安院である。福一事故の時、部屋に引きこもって「私は専門家ではないから何も判らない」と言って記者会見も拒んだのは、旧原子力安全・保安院長だった寺坂信明氏(今の原子力規制庁長官に相当)である。旧原子力安全委員長の班目春樹氏が菅直人首相に付き添って行動していたのと好対照である。それなのに、改造後の原子力規制庁の透明性は福一事故後、一切、改善されていない。
福島第二原子力発電所は第四層から復帰した世界で唯一の原子炉
原子力規制庁の専門性が如何に重要かは、福島第二原子力発電所の実例が示している。津波を受け、全停電となって政府に原子力災害対策特別措置法の第15条申請を行った所までは福島第一原子力発電所と同様だった。
つまり、福二サイトは原子力緊急事態となり、深層防護の第四層状態に陥っていたのだ。黙っていれば、核燃料が溶融し、放射能が施設外に漏えいする処だったが、福二の東京電力幹部と原子力安全・保安院原子力保安検査官は優秀だった。事態を分析し、津波で海水冷却ポンプが浸水して停止していることを把握すると、すぐにポンプの製造工場に要請して、予備のモーターを運ばせた。そのモーターは柏崎刈羽原子力発電所経由で福二原子力発電所に運ばれ、海水冷却ポンプに取り付けられ、福二原子力発電所は全停電状態すなわち、深層防護の第四層を脱し、冷温停止したのだ。
だから福二原子力発電所は事故にならなかった。福二の所長を務めていた東電の増田尚宏所長と旧原子力安全・保安院の宮下明男他の原子力保安検査官6名の専門性の高さが危機を救った。この例は原子力規制庁の専門性が如何に重要かを示した好例である。
福一事故後の改善対策
福一事故後、規制改革の筆頭に原子力規制庁の専門性の改善を掲げたのは、この福二原子力発電所の例を認識していたためである。旧原子力安全・保安院の専門性向上を阻害していたのは官僚のローテーション制度である。したがって原子力規制委員会設置法(設置法)の附則第6条第2項にノーリターン・ルールを盛り込んだ。しかし、原子力規制庁は15年9月30日これを形骸化してしまった。実質的にローテーションが行われているのが実態である。
事態を変えたIRRS
昨年1月のIRRSでIAEAは驚いた。日本のIRRSは一度2007年に実施し、基本的事項はその報告書で指摘しているのに、全く改善されていなかったからだ。IRRSは名称が総合規制評価サービスとなっていることで判るとおり、強制力はない。日本はスクラム回数の低さを根拠に安全性が高いと自負し、IRRSの指摘をまともに聞いていなかったのである。
しかし、今回は別だ。史上最悪の事故を起こしているからだ。流石に今回はIAEAの指摘を無視する訳に行かなかった。これまで原子力規制庁の抵抗で実行されなかった“専門性向上”に本気で取り組むことになったのだ。昨年12月27日に開かれた、原子力規制庁内に設置された「検査制度の見直しに関する検討チーム」の第8回会合で参考1として添付のスケジュールが示された。平成30年に試運用を始め、平成32年に実運用を開始するとのスケジュールである。原子力規制庁はこのスケジュールを実行すべく、職員を米国原子力規制委員会(NRC)に派遣し研修中である。この計画通り進むことを期待したい。
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