日本における発送電分離は機能しているか

2012年05月14日 13:00

(GEPR編集部より)GEPRはNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)と提携し、相互にコンテンツを共有します。民間有志による電力改革研究会の発送電分離についてのコラムを提供します。

発送電分離とは

電力自由化は、送電・配電のネットワークを共通インフラとして第三者に開放し、発電・小売部門への新規参入を促す、という形態が一般的な進め方だ。電気の発電・小売事業を行うには、送配電ネットワークの利用が不可欠であるので、規制者は、送配電ネットワークを保有する事業者に「全ての事業者に同条件で送配電ネットワーク利用を可能とすること」を義務付けるとともに、これが貫徹するよう規制を運用することとなる。これがいわゆる発送電分離である。一口に発送電分離と言ってもいくつかの形態があるが、経産省の電力システム改革専門委員会では、以下の4類型に大別している。
























発送電分離の4類型
(1) 会計分離 送電部門に関する会計を分離
(2) 法的分離 送電会社を分離するが、子会社(持ち株方式)でも可
(3) 機能分離 ISO※といった中立組織が系統運用を実施

(4) 所有分離 送電部門の資産保有も別会社に分離(資本関係を認めない)
※ISO(Independent System Operator 独立系統運用機関)系統運用機能や託送料金設定、送電線整備計画の策定等を行う。

(出典)電力システム改革タスクフォース「論点整理」

日本では会計分離+行為規制を採用

このうち、日本では(1)に該当する、送配電部門の会計分離と情報の目的外利用の禁止・差別的取り扱いの禁止といった行為規制を採用している。また電気事業法第93条に基づき指定された電力系統利用協議会(ESCJ)が、送配電ネットワークの設備形成や系統アクセス、系統運用、情報開示等に関するルール策定、これらルールに基づく送配電ネットワーク利用者と電力会社の送配電部門との間の紛争の斡旋・調停などの業務を行っている。

ESCJの運営においては、電力会社、新電力(PPS)、卸電気事業者・自家発設置者、中立者(学識経験者)の各グループが1/4ずつルール策定・改訂の議決権を持ち、苦情処理は中立者だけで構成された監視委員会で審査するなど、中立性・公平性・透明性が配慮されている。また行政は、事前関与を行わないが、ESCJの業務により公益上の問題が生じる場合には、電力会社への直接の規制、ESCJに対する業務改善命令などの事後措置を発動することとしている。

他方、より中立性・公平性・透明性を高める必要があるとして、「(2)法的分離」、「(3)機能分離」、「(4)所有分離」(中立性・公平性・透明性は段々に高まる)を採用すべし」との意見もある。いずれも民間事業者である電力会社の財産権の処分に行政介入することになるため、強制的に導入する場合は「公益の福祉にかなうのか」といった憲法上の問題を生じる。

つまり電力会社の株主が納得して自らそれを受け入れるか、あるいは行政が、現状に著しい問題があり、財産権を制限することでしか解決できないことを証明する必要がある(欧米においても、「(4)所有分離」を行った事業者は、元々国営であったか、自ら売却したかのいずれかである)。

ESCJは機能していないと言われるが

4月25日の第4回電力システム改革専門委員会では、ESCJが機能していない、その原因は、事務局が電力会社の出向者で占められているからだ、権限がないからだ、との意見があった。しかし、前述の通り、中立性・公平性・透明性を配慮した運営ルールがあり、国の事後措置が可能であることを踏まえると、むしろ、各関係者にESCJを使う、あるいは機能させる努力が不足していたように思える。

当日の事務局資料には「送配電部門の中立性に疑義があるとの指摘(事業者の声)」と題して、新規参入者(新電力)から寄せられた事例が8つ記載されている。詳細は経産省HPに掲載された資料をご確認いただきたいが(リンク先は文末に紹介)、記載されているのは疑義だけではなく、既定のルールに対する不満も混在している。

こうした声は、言いっぱなしにするのではなく、中立性に照らして本当に問題があるのかどうか、関係者の間でしっかり深掘りするべきものだ。新電力もESCJの理事会に名前を連ねており、事務局に人も派遣しているのだから、不満・疑問があるのならESCJに相談するなり、ルールの改正を提案すればよい。電力会社も、自らの行為に問題がないと思うならば、今からでもこれらの事例を自らESCJに持ち込み、調査・解明を依頼するべきだ。

加えてエネ庁も、これらの声が寄せられたのであれば、まず必要なのは、ESCJに調査を依頼するなり、自ら調査をして状況を解明することだ。それをすることなく、寄せられた声をそのまま右から左で資料に記載するだけでは、自ら制定したESCJ等の制度を、エネ庁自らスポイルしていると言えないか。上述のとおり、より強力な発送電分離に踏み切るなら、財産権を制限することでしか解決できない問題の所在を行政が証明して、憲法問題をクリアすることが必要だ。今の行政の対応状況が、その証明に耐えるとは考えにくい。

参考文献:
第4回電力システム改革専門委員会(2012年4月25日)参考資料1-2 事務局提出資料(本文で言及している部分は、P18-20)

 

This page as PDF

関連記事

  • 世界のエネルギーの変革を起こしているシェールガス革命。その中で重要なのがアメリカのガスとオイルの生産が増加し、アメリカのエネルギー輸入が減ると予想されている点です。GEPRもその情報を伝えてきました。「エネルギー独立」は米国の政治で繰り返された目標ですが、達成の期待が高まります。
  • 「2050年のカーボンニュートラル実現には程遠い」 現実感のあるシナリオが発表された。日本エネルギー経済研究所による「IEEJ アウトルック 2023」だ。(プレスリリース、本文) 何しろここ数年、2050年のカーボンニ
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回に続き、以前書いた「IPCC報告の論点③:熱すぎるモ
  •   人形峠(鳥取県)の国内ウラン鉱山の跡地。日本はウランの産出もほとんどない 1・ウラン資源の特徴 ウラン鉱床は鉄鉱石やアルミ鉱石などの鉱床とは異なり、その規模がはるかに小さい。ウラン含有量が20万トンもあれば
  • 総選挙とCOP26 総選挙真っ只中であるが、その投開票日である10月31日から英国グラスゴーでCOP26(気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開催される。COVID-19の影響で昨年は開催されなかったので2年ぶりとなる
  • 福島県内で「震災関連死」と認定された死者数は、県の調べで8月末時点に1539人に上り、地震や津波による直接死者数に迫っている。宮城県の869人や岩手県の413人に比べ福島県の死者数は突出している。除染の遅れによる避難生活の長期化や、将来が見通せないことから来るストレスなどの悪影響がきわめて深刻だ。現在でもなお、14万人を超す避難住民を故郷に戻すことは喫緊の課題だが、それを阻んでいるのが「1mSvの呪縛」だ。「年間1mSv以下でないと安全ではない」との認識が社会的に広く浸透してしまっている。
  • 森喜朗氏が安倍首相に提案したサマータイム(夏時間)の導入が、本気で検討されているようだ。産経新聞によると、議員立法で東京オリンピック対策として2019年と2020年だけ導入するというが、こんな変則的な夏時間は混乱のもとに
  • 地球温暖化問題、その裏にあるエネルギー問題についての執筆活動によって、私は歴史書、そして絵画を新しい視点で見るようになった。「その時に気温と天候はどうだったのか」ということを考えるのだ。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑