福島第一原発事故の健康への世界的影響(要旨)
【GEPR編集部より】米学術誌「エネルギーと環境科学」(Energy & Environmental Science)に掲載された研究者の論文要旨を日本語に翻訳転載する。筆者のホーブ氏とジェイコブソン氏はスタンフォード大学公共環境工学部(Department of Civil and Environmental Engineering, Stanford University)の研究者。
ただし、この論文の内容については、疑問が多い。アゴラ研究所の池田信夫所長がコラム「福島事故の3Dシミュレーションについて」で解説している。
要旨を掲載する。
2012年4月23日受領、2012年6月26日承認、2012年7月17日初出
この研究は、2011年3月11日に起きた福島第一原子力発電所事故による世界的な健康への影響を測るものである。影響は立体地球大気モデルの排出予測で測り、世界的な包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)の毎日の計測値と観測された沈着量と対照して評価された。
吸引による被曝、地上レベルの体外被曝、および福島から放出された大気へのヨウ素131、セシウム147、セシウム134の外部被曝経路が、ヒトの被曝のLNT (しきい値なし直線)モデルを使用して説明されている。
汚染された食品や水の摂取による被曝については推定して計測されている。
この研究で用いられている被曝線量と被曝の反応モデルに伴う不確定要素を考慮して、[何もないときよりも]130 (評価の幅15–1100) 人のがん関連の死亡者数および180 (24–1800) 人のがん関連の罹患者数が増えると、筆者は推定した。
また、LNTモデルの低線量被曝における不確定要素についても論じている。
放射性物質の排出量への感度、ガスの中で特にヨウ素131微粒子へ分けた計測、発電所からの半径での強制避難区域についても調査しており、死亡者数および罹患者数の上限値がそれぞれ1300人および2500人へと増加する可能性がある。
発電所作業員への被曝については、これによる罹患率は2から12人と予測される。
更に放射線と無関係の例えば強制避難などの理由による約600人の死亡者が報告されている。
最後に、核事故への場所と季節による影響を分析するために、米国カリフォルニア州のディアボロ・キャニオン原子力発電所が福島に等しい汚染物質の排出をするという仮想事故が研究された。
この仮想事故では、現地の人口密度が4分の1であるにも関わらず、異なる気象状況により、福島よりも約25%以上増加する死亡者数となる可能性がある。
図 セシウム137の総排出量(kBq/㎡)1カ月間のシミュレーション


関連記事
-
IEA(国際エネルギー機関)が特別リポート「エネルギーと大気汚染」(Energy and Air Pollution)を6月発表した。その概要を訳出する。 [2016年6月27日] IEAのリポートによれば、エネルギー投
-
鳩山元首相が、また放射能デマを流している。こういうトリチウムについての初歩的な誤解が事故処理の障害になっているので、今さらいうまでもないが訂正しておく。 放射線に詳しい医者から聞いたこと。トリチウムは身体に無害との説もあ
-
エネルギーに関係する、経済人、技術者、研究者などからつくる研究3団体は、このほど安倍晋三首相あてに、民主党政権が行ってきた原子力政策の転換を求める意見書を提出した。
-
高まる国際競争力への懸念欧州各国がエネルギーコストに神経を尖らせているもう一つの理由は、シェールガス革命に沸く米国とのエネルギーコスト差、国際競争力格差の広がりである。IEAの2013年版の「世界エネルギー展望」によれば、2012年時点で欧州のガス輸入価格は米国の国内ガス価格の4倍以上、電力料金は米国の2-2.5倍になっており、このままでは欧州から米国への産業移転が生ずるのではないかとの懸念が高まっている。
-
中国の環境汚染が著しい。空気、水、温室効果ガスの排出などの点で、急速な工業化と緩い規制によって環境破壊が広がる。しかし正確な情報は国内外に伝えられず、都市部を中心に中国国民の健康被害が伝えられ、政情不安の一因になっているとされる。東シナ海の汚染、PM2・5(微小粒子状物質)などによる大気汚染、酸性雨による日本への影響が懸念されている。温室効果ガスについては、中国は2010年には米国を抜き、世界最大の温室効果ガス排出国になった。中国は全世界のCO2のうち、約25%(日本は約6%)を排出している。
-
去る10月22日に経済産業省は、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)に関して、同法に基づく価格決定ルールの運用変更案を定めた省令、告示のパブリックコメントを開始した。この改正内容のう
-
福島県では原発事故当時18歳以下だった27万人の甲状腺診断が行われています。今年2月には「75人に甲状腺がんとその疑いを発見」との発表が福島県からありました。子どもの甲状腺がんの発生率は、100万人に1〜2人という報道もあります。どのように考えるべきでしょうか。中川 これは、原発事故の影響によるものではありません。
-
国連科学委員会の中の一部局、原子放射線の影響に関する国連科学委員会は、昨年12月に報告書をまとめ、国連総会で了承された。その報告書の要約要旨を翻訳して掲載する。迂遠な表現であるが、要旨は国連の報告書間で整合性が取れていないこと、また低線量被曝についてのコンセンサスがないことを強調している。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間