自民党、原子力規制改革案まとまる

2015年07月21日 16:00
アバター画像
経済ジャーナリスト

(写真・原子力規制委の審議)

143名の自民党の衆参両議院議員でつくる研究会・電力安定供給推進議員連盟(会長細田博之衆議院議員)は7月8日、同党の原子力規制に関するプロジェクトチーム(PT)(委員長・吉野正芳衆議院議員)に、それまでまとめていた「「原子力規制委員会設置法3年以内の見直し」等に関する緊急提言」を提出した。この文章は菅義偉内閣官房長官にも提出された。原子力規制委員会の制度、運用の大幅な見直しを求めるもので、今後PT内、もしくは内閣府で検討が行われ、政策に反映される。

同議連は原子力政策の混乱と、原発の長期停止を憂慮した議員の集まった研究会だ。原子力規制委員会が今秋3年目を迎えて法に記された見直し時期になったことから、今年春先から議員の議論、そして有識者からの意見聴取を行ってきた。議論では、事業者と対立状態にあり、「独善」の批判が根強い原子力規制委、規制庁の活動への疑問が、多くの議員から示された。

GEPR・アゴラでは、その審議の内容を伝えた。「自民党、原子力規制の改革に前向き−実現は不透明」。このほど、議連の最終案を入手したので抜粋を紹介する。自民党はこれを積極的に広報せず、またメディアも取り上げていない。また、この提言がどこまで実現するかは分からない。しかし、この文章が、今後規制改革での議論の基点になるだろう。

1・炉規制法の見直し

提言では、原子力規制委員会設置法だけではなく規制政策の根幹を定める原子炉等規制法について、改正の必要性を指摘した。

これまでの炉規制法では明記されなかったが、規制の目的を「原子力施設の安全な利用」と明記することを求めた。さらに活断層審査で、現時点で混乱が続いていることから、「地震津波安全専門委員会」を設置。また法で明記されているのに、規制委員会が運用していないと批判を集める「原子炉安全専門委員会」の機能を強化。専門家による審議を活性化させることを求めた。

特に、活断層、津波問題で、基準が明確でなく混乱しているために「地震津波安全専門審査会(仮称)」を置くことを求めた。「現在、重要構造物の下に活断層がある」と判定された日本原電敦賀2号機は廃炉の可能性に直面している。この問題を含め、活断層審査について専門審査会での再審査も求めている。

また審査官の裁量が影響する現在の審査を、リスク・確率評価にすることも求め、予見可能性を強めることにした。

また40年運転問題で、審査機関が短いことから廃炉が続くことが懸念されている。この点について、その見直しと、余裕を持った審査を求めた。

2・原子力規制委員会の見直し

規制委員会・規制庁は現在、事業者と対立関係にあることが懸念されている。そのために規制委員を縛る「行動指針」の明確化、所管官庁の環境省から、防災を担当する内閣府への移管を求めた。

さらに独立性は維持しつつも審査活動をチェックするために、「安全諮問委員会(仮称)」を設けて、国際的な基準と照らして監査を行うことを求めた。

さらに法律に基づかない行政指導が続いていることから、規制ルールと通達の文章化を求めた。

さらに規制スタッフが公務員に偏在していることから、専門性を持つスタッフの中途採用、そして規制委員会委員の判断に役立てるための専門スタッフの採用と「規制委員会室」の設置を求めた。

またバックフィットルール(規制の遡及適用)の明確化を求め、審査ガイドをつくることを求めた。

  ◇  ◇  ◇

以上の議論は、これまでGEPRで有識者が繰り返し指摘してきた原子力規制の諸問題に一定の解決を示すものだ。安倍政権の中では、原子力・エネルギー政策の正常化の優先順位は残念ながら高くないもようだ。しかし、早急な実現を行ってほしい。

原子力は安全性と同時に、その活用も考え、運営しなければならない。現在は安全追求に、規制政策が傾きすぎている。

(2015年7月21日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 高速炉、特にもんじゅの必要性、冷却材の選択及び安全性についてGEPRの上で議論が行われている。この中、高速炉の必要性については認めながらも、ナトリウム冷却高速炉に疑問を投げかけ、異なるタイプで再スタートすべきであるとの主張がなされている。
  • アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」を公開しました。 今回のテーマは「迷走する原子力規制委員会」です。 原子力規制委員会は、動いている原発を2020年にも止める方針を電力会社に伝えました。混乱する原子力行政の
  • 石川 和男
    政策アナリストの6月26日ハフィントンポストへの寄稿。以前規制委員会の委員だった島崎邦彦氏が、関電の大飯原発の差し止め訴訟に、原告の反原発運動家から陳述書を出し、基準地震動の算定見直しを主張。彼から規制委が意見を聞いたという内容を、批判的に解説した。原子力規制をめぐる意見表明の適正手続きが決められていないため、思いつきで意見が採用されている。
  • 本稿の目的は、北海道で再び大規模な停電が起きないように、北海道胆振東部地震の経験から学ぶべき教訓を考えることにある。他方現在北海道の大停電については電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」)において検証委員会が開催され、
  • 九州電力は川内原子力発電所1号機(鹿児島県薩摩川内市、出力89万kW)で8月中旬の再稼動を目指し、準備作業を進めている。2013年に施行された原子力規制の新規制基準に適合し、再稼働をする原発は全国で初となるため、社会的な注目を集めている。
  • 日本の鉄鋼業は、世界最高の生産におけるエネルギー効率を達成している。それを各国に提供することで、世界の鉄鋼業のエネルギー使用の減少、そして温室効果ガスの排出抑制につなげようとしている。その紹介。
  • 東京電力の元社員の竹内さんが、一般の人に知らないなじみの少ない停電発生のメカニズムを解説しています。
  • 読売新聞
    6月25日記事。バイデン副大統領が、米国でのインタビューで、習近平中国国家主席に、このような警告をしたと発言した。もちろん本音は中国への牽制だろうが、米国の警戒感もうかがえる。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑