反原発運動の終わりの始まり

2016年04月11日 09:00
アバター画像
アゴラ研究所所長
(写真)九州電力川内原発

九州電力の川内原発の運転差し止めを求めた仮処分申請で、原告は最高裁への抗告をあきらめた。先日の記事でも書いたように、最高裁でも原告が敗訴することは確実だからである。これは確定判決と同じ重みをもつので、関西電力の高浜原発の訴訟も必敗だ。

高浜では実際に毎日5億円の損害が発生しているので、3月9日の差し止め決定から1ヶ月で、すでに150億円の債務を原告は負っている。29人で分担しても1人5億円だ。今まで東電を食い物にしてもうけた河合弁護士などの反原発派が払ってくれるかもしれないが、これで彼らは壊滅するだろう。

今回の敗北で、反原発運動の流れは変わった。今まで「命は金に代えられない」などと言っていたフリーライダーも、自分の金は命より大事らしい。それも2基で1日5億円、全国の48基で約100億円の損害が毎日、発生しているという具体的な金額が法廷で示されたことは重要だ。

原発を止めることで救われる命は、歴史上の原発事故の死者60人を50年で割ると全世界で毎年1.2人だが、そのコストは日本だけで年間3兆円以上だ。つまり原発事故の命の値段は1人2.5兆円以上ということになる。これは交通事故で年収400万円のサラリーマンが死んだ場合の賠償額5000万円の5万倍である。

命の価格は無限大ではない。現代社会では、人々は命を金で買っているのだ。原発だけに莫大なコストをかける理由はない。命を救うコストが最小なのは、毎年11万人を殺しているタバコの禁止である。原発で敗北した河合一派は、タバコの製造差し止め訴訟をやるべきだ。

(2016年4月11日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • カリフォルニア州の電気代はフロリダよりもかなり高い。図は住宅用の電気料金で、元データは米国政府(エネルギー情報局、EIA)による公式データだ。同じアメリカでも、過去20年間でこんなに格差が開いた。 この理由は何か? 発電
  • 地球温暖化の予測は数値モデルに頼っている。けれども、この数値モデルにはパラメーターが沢山あって、それを操作する(=モデル研究者は「チューニング」と呼んでいる)とその予測はガラガラ変わる。 このことは以前から指摘されてきた
  • 翻って、話を原子力平和利用に限ってみれば、当面の韓米の再処理問題の帰趨が日本の原子力政策、とりわけ核燃料サイクル政策にどのような影響を及ぼすだろうか。逆に、日本の核燃料サイクル政策の変化が韓国の再処理問題にどう影響するか。日本ではこのような視点で考える人はあまりいないようだが、実は、この問題はかなり微妙な問題である。
  • サプライヤーへの脱炭素要請は優越的地位の濫用にあたらないか? 企業の脱炭素に向けた取り組みが、自社の企業行動指針に反する可能性があります。2回に分けて述べます。 2050年脱炭素や2030年CO2半減を宣言する日本企業が
  • 自由化された電力市場では、夏場あるいは冬場の稼働率が高い時にしか利用されない発電設備を建設する投資家はいなくなり、結果老朽化が進み設備が廃棄されるにつれ、やがて設備が不足する事態になる。
  • 前回ご紹介した失敗メカニズムの本質的構造から類推すると、米国の学者などが1990年代に行った「日本における原子力発電のマネジメント・カルチャーに関する調査」の時代にはそれこそ世界の優等生であった東電原子力部門における組織的学習がおかしくなったとすれば、それは東電と社会・規制当局との基本的な関係が大きく変わったのがきっかけであろうと、専門家は思うかもしれない。
  • 【要旨】日本で7月から始まる再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の太陽光発電の買取価格の1kWh=42円は国際価格に比べて割高で、バブルを誘発する可能性がある。安価な中国製品が流入して産業振興にも役立たず、制度そのものが疑問。実施する場合でも、1・内外価格差を是正する買取価格まで頻繁な切り下げの実施、2・太陽光パネル価格と発電の価格データの蓄積、3・費用負担見直しの透明性向上という制度上の工夫でバブルを避ける必要がある。
  • 震災から10ヶ月も経った今も、“放射線パニック“は収まるどころか、深刻さを増しているようである。涙ながらに危険を訴える学者、安全ばかり強調する医師など、専門家の立場も様々である。原発には利権がからむという“常識”もあってか、専門家の意見に対しても、多くの国民が懐疑的になっており、私なども、東電とも政府とも関係がないのに、すっかり、“御用学者”のレッテルを貼られる始末である。しかし、なぜ被ばくの影響について、専門家の意見がこれほど分かれるのであろうか?

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑