核燃料サイクル政策、続けるべき理由(上)
使用済み燃料の再処理を安定的、効率的に行うための「再処理等拠出金法案」の国会審議が行われている。自由化で電力会社が競争環境下に置かれる中で、再処理事業を進める意義は何か。原子力に詳しい有識者と政治家が徹底討論を行った。
津島淳(自民党衆議院議員・青森1区)
新妻秀規(公明党参議院議員・比例区)
石川和男(社会保障経済研究所代表)
澤田哲生(東京工業大学助教)
石川・4月から電力小売りの全面自由化が始まり、電力会社も厳しい競争環境の下に置かれます。その中でも使用済み核燃料の再処理を進めるために、「再処理等拠出金法案」が今国会に提出されています。
法案の目的は再処理事業の安定的な継続です。東京電力の福島第1原子力発電所の事故後に、原子力については国論が分かれました。一時ほどではありませんが、今も原子力発電所の再稼働や使用済み燃料を再処理して利用する核燃料サイクルに批判的な人たちが少なくありません。あらためて再処理事業の意義についてお聞きします。
まず軽水炉サイクルから実行を
津島・まず重要なことは、資源小国である日本では石油や天然ガスと同じように、ウランも輸入に依存していることです。そういう状況のなかで、輸入に依存せずに国内循環型で原子力発電を運用することは極めて重要なことです。
なぜなら、かつて原油価格が急騰したことが良い例ですが、さまざまな国際的な動向によってエネルギー資源の価格が左右されることは、日本経済にとって非常に大きなマイナス要因、リスク要因になるからです。それらをなるべく排除したほうがいい。
ウランも石油と同じです。世界規模で原子力発電所が増えていくことで将来、価格が跳ね上がるかもしれない。ですから、まず軽水炉におけるサイクルをしっかりと進めることで、核燃料を国内で循環させる体制を確立させる。それがまず、大事なことだと思っています。
その先のステップとして、高速炉サイクルがあります。しかし、いま目指すべきなのは、当面は軽水炉でのサイクルをきちんと確立することです。そうしてウラン燃料の需給体制を確立して、エネルギーセキュリティーの面でのリスク要因を排除していくことです。
再処理事業のもう一つの大きな意義は、放射性廃棄物を減容化し、有害度を低減できることです。これは明らかに効果がありますので、国民の皆さんに訴えていきたいと思っています。
新妻・津島さんが言われた通りだと思います。中でも、私は放射性廃棄物の減容化と有害度の低減が非常に大切だと考えています。使用済み燃料を再処理することで、直接処分と比べて体積を約4分の1にでき、放射能レベルを天然ウラン並みにまで下げる期間を約10万年から8000年程に短縮できます。さらに高速炉サイクルが実現すれば、300年程にできる。現世代の責任として、将来世代の負担は可能な限り減らさなければなりません。
現世代の責任という点では、地球温暖化問題も同じです。二酸化炭素の排出を抑えるために、少なくとも当面、原子力発電は欠かせません。そのためにも、当面は国内で軽水炉サイクルを回していくことが重要だと思っています。
石川・使用済み燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物処分の話は、一般の人たちには非常に分かりにくく、大多数の人が「怖い」という印象を受けています。しかし、技術としては既に確立されている。そこを専門家は分かりやすく説明するべきだと思います。
「使用済み」燃料ではなく資源になる
澤田・その通りです。しかし、そこが不足しているのは事実で、専門家として責任を痛感しています。ところで、実は私は「再処理」という言葉が気に入らないんです。「使用済み」も同じです。「再処理」や「使用済み」と言うと、もうお役御免になったものという印象を与えてしまう。そうではありません。ウラン燃料を使う過程で、プルトニウムという新たな燃料を自国でつくることができる。さらに、まだ使えるウランを取り出すこともできる。そこに主権と安全保障があると考えています。津島さんが言われたように、エネルギーセキュリティーの面で重要な価値を生み出すことができる事業なんです。
そこが非常に大切です。しかし、「再処理」や「使用済み」と言うと、そういったイメージが縮こまってしまい、核燃料サイクルが本来持っている豊かさが消えてしまう。サイクルを回すことによって非常にありがたいものが得られることを、もっと訴えていかなければならないと思っています。
新妻さんが指摘されたように、放射性廃棄物の有害度を減らし、減容化することの意義も大きい。フィンランドのように使用済み燃料をそのまま地中に処分すると約10万年、人間が面倒を見なければならない。しかし、再処理してガラス固化体にすると、約8000年に管理期間が短くできます。さらに高速炉などを使うことで数百年も視野に入ってくる。
津島・確かに、「再処理」や「使用済み」というよりは、リサイクルあるいは再利用というような、もっと前向きなイメージがある言葉にして国民に発信していく方がいいかもしれません。
新妻・そうですね。核燃料サイクルは究極の再利用であり、リサイクルだと思います。
石川・すると、法案の名前も変えた方がいいかもしれない。
澤田・私は、本来は「核燃料サイクル安定推進法」とすべきだと思っています。
津島・核燃料サイクルで忘れてはいけないのが人材育成の点です。日本の原子力技術を継承していくための人材育成は、サイクルを抜きに語れません。ですから、原子力を今後ベースロード電源と位置付け、まず軽水炉サイクルを確立して、最終的に次のステップの高速炉サイクルに進めていくことが重要です。それらを通じて人材育成を行って、世界にも貢献していく。日本は技術立国で原子力発電所も輸出していきます。人を育てずにインフラ輸出はできません。
澤田・同感です。しかし、昨今の人材育成は廃炉や規制ばかりで、推進のための研究は絶滅寸前の状況です。
原燃のガバナンスが重要
石川・国会に提出された法案を見ると、再処理事業の実施主体は日本原燃から新設される認可法人、「使用済燃料再処理機構」に移されます。日本原燃は再処理機構から委託を受ける形になる。これまでの「国策民営」から、「国策国営」に近い形になるかもしれません。この点について、どう考えていますか。
澤田・やはり再処理事業は、あくまで日本原燃が主体で進めるべきだと思っています。電力自由化で、事業を進めるために必要な資金調達ができない可能性が出るかもしれない。その中で、新しく認可法人をつくり、懸念を払しょくする法案が提出されたことは良いことだと思います。
ただ、やはり新しい枠組みも、日本原燃が事業を進める上でガバナンスを発揮できるものでなければならない。資金調達の問題が取り沙汰されるようになった頃、再処理事業に国の公的関与を今回の法案以上に強めるような動きがありました。これは、六ケ所再処理工場を「もんじゅ化」するようなものです。
確かに六ケ所再処理工場は稼働時期を23回も延期しています。原燃は世間からは「何をやっているんだ」と思われている。しかし、それぞれ理由があり仕方なく延期をしていたわけで、今は18年度上期の稼働を目指して頑張っている。やはり日本原燃が稼働に向けてガバナンスを発揮して、それに最大限、皆が協力していく体制にするべきです。
津島・その通りだと思います。民間企業である日本原燃のガバナンスを今後も確保することが大切で、私も法案の議論が始まったときから、日本原燃が事業を進める上で主体性を担保できる仕組みが大切だと言い続けてきました。
法案が国会に提出されてからは、「間違いなく確保します」という政府答弁をいただいています。これからも動向を注視していきますが、認可法人の理事長、監事は国会同意人事ではなく、経済産業大臣が任命します。そして理事は理事長が指名し、経産大臣が認可する。ですから政治の側としては、法案が成立した後、認可法人ができる過程をしっかり見ていこうと思っています。
新妻・そうですね。経産省に任せるのではなく、政治家がしっかりと中身をチェックしていくことが大切だと思います。
(注)この文章はエネルギーフォーラム3月号掲載の座談会を、関係者のご厚意で転載させていただいた。感謝を申し上げる。
(下)に続く。
(2016年4月11日掲載)
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